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福井地方裁判所武生支部 昭和32年(ワ)44号 判決

原告

山内栄

外一名

被告

松葉助左ヱ門

主文

被告は原告山内栄に対し金拾参万円、原告山内ふさに対し金拾万円及びこれらに対する昭和三十二年六月五日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告等その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告両名の、その余を被告の負担とする。

この判決中原告勝訴の部分に限り、原告山内栄において金四万円、原告山内ふさにおいて金参万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告山内栄に対し金三〇、〇〇〇円並に原告両名に対し各金二五〇、〇〇〇円及びこれらに対する本訴状送達の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」。との判決並びに仮執行の宣言を求めその請求の原因として別紙第一(請求の原因)記載のとおり(但し同記載中、被告坂下新右ヱ門、被告江波丸坂木工合資会社、被告会社とあるは夫々訴外坂下新右ヱ門、訴外江波丸坂木工合資会社、訴外会社と夫々訂正し、その四項、五項、及び六項中(イ)の部分をいずれも除く。)陳述した。(立証省略)

被告は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、原告主張に対し、別紙第一(被告の答弁)記載のとおり(但し、同記載中、被告坂下新右ヱ門とあるを訴外坂下新右ヱ門と訂正し、(一)項中(ロ)の部分及び(三)項を除く。)陳述した。(立証省略)

理由

別紙第二(理由)一乃至三、記載のとおり(但し、被告新右ヱ門被告会社とあるは夫々訴外新右ヱ門、訴外会社と訂正する。)原告山内栄の本訴請求は金三〇、〇〇〇円(葬式費用)と金一〇〇、〇〇〇円(慰藉料)計一三〇、〇〇〇円、原告山内ふさの本訴請求は金一〇〇、〇〇〇円(慰藉料)及びこれらに対する訴状送達の翌日であること本件記録に徴し明らかな昭和三十二年六月五日以降右完済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度において理由あるものとしてこれを認容するが、その余の請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第九二条、第九三条、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三)

別紙第一

(請求の原因)

一、被告松葉助左ヱ門は昭和三十年七月九日同人所有の自動三輪車(福井第六ー一八四四〇号)を操縦運転して、被告坂下新右ヱ門が操縦していた被告江波丸坂木工合資会社(以下単に被告会社という)所有の自動三輪車(福井六ー八三九〇号)をけん引し、同日午後五時三十分頃、被告会社肩書所在地前道路(県道巾員六米)西方約四十米の地点に差しかゝつた際その操縦を誤り、被けん引車を道路左側に置いてあつた長さ六尺直径五十糎位杉丸太数本に激突させ、その中の一本を二米位跳ねとばして、偶々附近道路南側に避難中の原告両名の三男訴外山内昌義(昭和二十七年三月三十一日生)にこれを激突させ、同人に胸部挫傷、両上膊骨粉砕骨折肩胛骨々折等の傷害を与え因て同日午後六時二十分同人を死亡するに至らしめた。

二、右現場附近は非舗装であるが、路面平坦、平滑にして、凹凸、障碍物もなく、見透しも良好な場所である。

三、被告松葉助左ヱ門、被告坂下新右ヱ門は右事故現場附近において前方並びに後方確認義務を怠り、被害者昌義の行動、存在に留意せず、唯、慢然と進行を急ぎ、その距離が切迫するや車上にて狼狽するのみにて急制動処置、警音器吹鳴等危険防止の措置を購ずることなく業務上の注意義務を怠つたものであるから本件事故は右両名の共同した過失に基因するものであつてその賠償の責に任ずべきものである。

四、被告坂下新右ヱ門は被告会社の使用人にして、同会社の事業のために前記のとおり自動三輪車を操縦していて本件事故を生ぜしめたものであるから、被告会社も使用者として、その賠償の責に任ずべきものである。

五、被告坂下新之助は被告会社の無限責任社員にして、商法第一四七条、第八六条により被告会社と連帯して、その賠償の責に任ずべきものである。

六、(イ)被告会社は木材の製材並びに売買、土木建築の請負を業とし十数名の従業員を擁して盛大に事業を営むもの、被告坂下新之助は自動車二台、工場、住宅、倉庫等十二棟(建坪二五〇坪余)、宅地一〇〇坪余、田畑二町余、山林三町六反余を所有するもの、(ロ)被告松葉助左ヱ門は運送業を営み、三輪自動車、居宅、倉庫等建物三棟(建坪一〇〇坪余)、宅地三四〇坪余、山林五反七畝余田一反余を有するものである。

七、原告等は商業並びに瓦葺業を営み、店舗兼居宅並びに宅地その他の土地を所有するものにして、被害者昌義の外長男、長女の子があるのみで、右昌義の死によつて多大の精神上の苦痛を蒙つたから、その慰藉料として、各自金三〇〇、〇〇〇円以上を相当としてその内各金二五〇、〇〇〇円、又原告山内栄は昌義の葬儀料金三八、〇〇〇円を支払つたのでその内金三〇、〇〇〇円及びこれら全員に対する訴状送達の翌日以降右完済まで年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。

(被告の答弁)

(一)、原告主張事実中、(イ)被告松葉助左ヱ門が自動三輪車により被告坂下新右ヱ門の自動三輪車をけん引したこと、原告等の三男昌義が材木に衝突して死亡したこと。(ロ)被告坂下新之助が被告会社の無限責任社員であることのみ認めその余の点を否認する。

(二)、被害者昌義は材木の傍で遊んでいた際、本件事故に遭つたものであるが、一般に材木の積んである場所は危険であることを感知し得るから、かゝる場所を避けるのが相当であり、仮に材木が転々して来ても即時にこれを避け得るのであるが、本件被害者は幼児であつたためこれをなし得なかつたのであつて、原告等はかかる幼児の保護者として万全の処置をとることを怠つたため本件事故が発生したものということができる。仮に被告等に過失があつたとしても原告の過失と相殺されるべきである。

(三)、被告会社に支払義務のないことは以上のとおりであるが、仮に幾分の支払義務があるとしても会社には充分の支払能力があるから被告坂下新之助に対する請求は失当である。

(四)、被告等は本件事故発生後香典見舞合計金二五、〇〇〇円その他の御供物等を持参し、礼をつくし、原告本家からも御礼に来て、本件事故は円満に解決している。仮にそうでないとしても原告主張の損害額は不当である。

(原告の証拠)

甲第一号証の一乃至十一、第二号証の一乃至十、第三、第四号証の各一、二、第五乃至第七号証、第八号証の一、二、

証人木下太左ヱ門、向当しげ子、田中昭、被告坂下新右ヱ門、松葉助左ヱ門本人、原告山内栄(第一、二回)、山内ふさ本人、検証

別紙第二

(理由)

一、被告松葉が原告主張日時、場所において同人所有の自動三輪車(福井第六ー一八四四〇号。以下けん引車という。)を操縦して被告新右ヱ門が操縦する被告会社所有の自動三輪車(福井六ー八三九〇号。以下被けん引車という。)をけん引したこと、原告等三男訴外山内昌義がその頃杉材丸太に衝突して死亡するに至つたことはいずれも当事者間に争のないところである。

二,成立に争のない甲第一号証の二、四、七、第二号証の一、六乃至九によれば、被告新右エ門は本件事故当日、前記会社所有の自動三輪車が故障のため運転不能となつたので、これを被告会社より福井市内の修理工場まで運んで修理を受けようとし、かねて知合いの被告松葉に対して右の車を修理工場までけん引するよう依頼し、松葉の乗車する前記けん引車の後部荷台左下に設けられたけん引用「ブツク」と被けん引車前部「フオーク」前照灯附近とを麻製ロープを以て両車輛の間隔四・六米で連繋し、自ら右被けん引車に乗車し、その把手のみを操作することとして、出発準備を了えて松葉にその旨を伝え、松葉は新右エ門の依頼を承諾して、右けん引車を操縦運転することとし、新右エ門の合図により前記日時頃、被告会社より県道上を丹生郡織田町方面に向けて出発したが、当初、けん引車が被けん引車を右前方にけん引したゝめ、前記麻製ロープの連繋状況、高低の関係から右ロープが被けん引車の前車輪に対して、その右側を通つて左斜前方向への直線の形で、両車輛を連繋する結果となり、そのため被けん引車の前車輪の右折廻転を著しく困難となし、被けん引車は左寄りに偏して道路左側に逸脱せんとするような状態になつた。松葉は車輛の連繋については新右エ門に一任したまゝ、出発前後にもその模様を見ることなく、唯当日、その前に同じような方法で新右エ門の被けん引車をけん引した際、けん引中異常を認めたときには新右エ門から警音器を吹鳴して松葉に知らせる旨打合せたことがあつたところから、この場合にも同様、異常があれば当然新右エ門から何等かの連絡があるものと軽信し、時速一五粁位で進行を続けた。新右エ門は出発後、前記のような事由で被けん引車が左寄りに偏して把手の操作が容易でないことに気付いたが、そのうちに通常の状態になるものと軽信し、けん引車のけん引するまゝ約三〇米位進行したところ、前方二〇米程の道路左側にあつた杉材丸太に被けん引車が接触しそうな形勢となり、且つ、その附近に遊戯中の被害者昌義の姿を発見し(被告新右エ門本人尋問の結果中、被害者の姿を見かけなかつた旨の供述部分は前掲示甲第一号証の四、七と対比して措信できない。)周章狼狽の余り、警音器を吹鳴してけん引車に異常を伝えることを失念し、徒らに被けん引車の把手を右折廻転することにのみ気を奪われ、僅かに松葉に停止を呼びかけたものゝ、けん引中の騒音のため同人の耳に達せず、そのまゝ道左端に沿つて進行を続け、被けん引車々体下部備付の道具箱が右杉材丸太一本(長さ四米、直径五〇糎)に接触し、右丸太を右昌義に激突させて、同人に胸部挫傷、両上膊骨粉砕骨折、肩胛骨々折等の傷害を与え、因つて同人を同日午後六時二十分頃死亡するに至らしめた。以上の事実を認定することができ、他に右認定に反する証拠は存しない。右認定事実によれば、両車輛のけん引に際し、被告新右エ門は出発直後、把手操作の自由を奪われ、被けん引車が道路左寄りに偏し、果ては道路端にあつた杉材丸太に接して、附近に居合せた被害者に右丸太が激突する危険を察知したのであるから、当然、速かにさきに打合せたところに従つてけん引車に対し警音器を吹鳴して危険を伝え、停車を求めると共に、自己の操縦するけん引車にも急制動措置を施し、又、被告松葉は出発直前直後の両車輛の連繋模様に留意し、このまゝ進行を続行する上において危険発生の虞れがないかどうかを確認する等して、いずれも事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものというべきところ、右両名共かかる注意義務を怠り、そのまま進行を続けた過失により、前記認定のとおり、被害者に杉材丸太を激突させてこれがため同人を死亡するに至らしめたものにして、右両名はいずれも各自連帯して右共同の不法行為によつて生じた損害賠償の責に任ずべきものといわなければならない。被告等は本件事故は原告等の監督義務懈怠に基因する旨主張するが、右主張はこれを認めるに足る証拠は存しないから、採用の限りでない。

三、原告山内栄、同山内ふさ各本人尋問の結果によれば原告山内栄は左官業を営み、月収金一三、〇〇〇円程度を得、居宅、敷地等を所有して生活は一応困らない程度であること、原告夫婦間には被害者昌義の外には長男、長女(本件事故後出生)があること、昌義の葬式費用として原告栄は少くとも金三〇、〇〇〇円の支出をなしたこと、本件事故後被告側より原告等に対して香典、永代経として金二五、〇〇〇円、ろーそく代金一、〇〇〇円外に御供物金二、〇〇〇円相当の提供のあつたことを夫々認めることができ他に右認定に反する証拠は存しない。被告等は過失相殺を主張するが、原告等の過失を認めるに足る証拠の存しないことは、さきに判示したとおりである。右認定事実に徴して明らかな原告等の生活状態、社会的地位、本件事故発生の状況と事故後被告側から原告等に提供された香典等その他諸般の事情を斟酌すれば被告等が原告両名に対して支払うべき慰藉料の額は各金一〇〇、〇〇〇円を以て相当と解する。

又、原告栄の支出した葬式費用金三〇、〇〇〇円は右認定の原告等の境遇に照して不相当に高いものと解せられないから、被告等は原告栄に対して本件事故による財産上の損害賠償として右金員の支払義務あるものといわなければならない。尚、被告等は本件事故について原、被告間に和解が成立している旨主張するが、これを認めるに足る証拠は存しないところである。

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